お仕事整形外科医です。
骨折治療学会誌で、面白い論文を見つけました。
「急性期病院から老人施設に直接退院した大腿骨近位部骨折患者の予後」というタイトルで、大腿骨近位部骨折患者が急性期を退院した後にどこに退院するか?で、予後が変わるかを検討したものでした。
論文中では、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、老健、特養を比較していました。
結果としては、特養は歩行能力を維持しやすく、それ以降は、サービス付き高齢者向け住宅・グループホーム・老健という順番でした。
一方、認知症の重症度が歩行能力維持に関与していたこと、多変量解析では施設種別のみが歩行能力維持に関与していたとのことでした。
考察では、海外と比較すると高い歩行能力が維持されているため、「日本の高い介護力」を誇示しておられました。
しかし、施設の考え方や家族の判断によって、歩行能力を急性期よりも下げられている症例が存在するとの指摘もありました。
施設職員・家族が患者の歩行能力を下げて生活させる事例は実際ある
高齢者施設、特にサービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどいわゆる、医師が常駐していない施設では実際にこのような事例は散見されます。
理由としては、
- 高齢者の転倒に対する責任問題
- 高齢者の状態変化時の安静度確認を気軽にできない
- 転倒時にすぐに相談する先がない
介護施設は病院ではなく、生活の場であるという認識が、社会や医療・介護業界全体に広がれば、責任問題については解決されるような気もするのですが、 なかなかそうもいかないようです。
本来なら、高齢者の防ぎきれない転倒を説明できる人がいて、同意書を取ればいのかもしれませんが一般的ではありません。
そのため、日本では欧米よりも「高齢者ができることにも、制限をかけがちである」とも言われます。
また、高齢者はすぐに状態が変化し、それが歩容に影響します。医師が常駐していない施設としては、同じように歩いていいのかを確認する方法がありません。また、転倒しても同様にすぐに相談する先がなく、「安全第一で安静度をさげてしまおう」となりがちなのです。
退院する施設間で差があるのは、現場感覚からも当然
退院先の施設間で、退院後の歩行維持可能かどうかに差が出るのは、現場間からすると当然です。
そもそもグループホームは、認知症高齢者向けの施設であり、認知症が歩行状態維持に影響を及ぼす因子であれば、当然影響が出ます。
さらに、介護保険が丸めであるため、訪問看護や訪問リハを通したリハビリテーションサービスが受けにくいという問題点もあります。
やるとすれば、特別訪問看護指示書を用いた、退院後14日間の医療保険でのリハビリですが、14日のみではたりません。
そもそも、グループホームという枠組みができた当時、ここまでグループホームで医療ニーズが上がることを想定していなかったのではないか?という声もきかれ、今後この問題が明るみになれば制度の見直しも叫ばれるようになるかもしれません。
この辺のことは、以前も記事にしています。
骨折治療から見た<br /> グループホームの問題点
まとめ
論文自体は、着眼点が非常に面白く今後注目されべき点であると思われますが、読む人によっては、「あまり介護保険に詳しくない人が書かれているな」とわかってしまう内容です。
目の前の患者さんが1年、2年後にどのような歩様になっているかまでを視野に入れた複合的な知識が今後求められてくると考えます。
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