最近、投資や教育や家づくりや、本業についての記事があまりないことに気づいて、急いでこの記事を書いていることをここに告白します。私は、「お仕事整形外科医」。お仕事が整形外科医である以上、プライドとこだわり・責任を持って仕事します。
さて、今回は気になる論文の文言を見つけました。
この論文のタイトル自体はよくありそうな感じです。
ですが、この論文では、術後、最も歩行状態が良かった時と、1年後の歩行状態を比較している点が面白いと感じました。
術後1年の歩容は術後最大(最高に良い時)に比較して、落ちる
やや、分け方としては乱雑な気もしますが、すごくいい気づきの視点であると思います。
実は、回復期・生活期までまたにかけているお仕事整形外科医はこのことを感じることが非常に多いのです。
実際術後急性期では、杖歩行までできていたのに、生活期に戻ると、歩行器歩行になっていることはざらにあります。
その要因として、
- 本人の年齢
- 生活期への理解のなさ・背景の設定不足
- 施設側の思惑
が挙げられます。ひとつひとつ、説明していきます。
本人の年齢
急性期の医師にとっては、これがもっとも理解しやすいのではないでしょうか?
しかし、私は実際にはこの影響はそれほど大きくないと考えています。
ADLが落ちやすいという部分は、年齢は無視はできませんが、それ以外の要因も非常に大きいと思います。
生活期への理解のなさ・背景の設定不足
これが一番の原因と考えています。
急性期の医師が、患者の病気しか見ないことによって起きる現象です。
実際に、outcomeとして住まいでの生活がどう変わったかを反映させるべくところ、医師はレントゲンしかみていなかったり、診察室での歩容のみをあてにしている人が散見されます。
これには、医師の介護保険への理解不足、興味のなさが大きく影響しています。
生活期に戻った時に、どうすればその機能を維持できるかを考えていない人が多すぎるのです。
もちろん、回復期を挟めばある程度考えてくれることがありますが、施設で骨折された人などを、そのまま短期間で施設に戻すなんてことは、ざらにみます。
その場合に、ほとんど背景を調整されることなく、とにかく施設へ帰宅。その後はどうなったか知らないという状況を多く見ます。
これは、施設を小さな病院と勘違いしている医者に見られる現象です。
施設はあくまで施設。医療スタッフがいないところもたくさんあります。決してリハビリを続けられるような場所ではないし、患者さんの全身状態を細かく把握できる場所でもありません。
介護保険をうまく利用して、背景を整えれば機能を維持できたものを、自分の目の前からいなくなったら後は知らないと言わんばかりに放り投げる医者が多く見られます。
ですが、これは介護保険に対する教育がされていないのである程度は仕方がない部分もあります。実際、以前は私もそういう傾向がありました。
ですが、ここまで急性期病院での入院期間が削られ、介護保険が重視されているなか、そのツールを知らずに目の前にいた時のみ、病気を治療する医者は、患者が求めるoutcomeを達成できないと考えられます。
- 退院前に、家屋調査し、居住状況を確認する
- 退院時に特別訪問看護師指示書を記載してリハビリを集中的に入れる
- かかりつけ医と連携し、退院カンファレンスを行う
など、できることはたくさんあります。
施設側の思惑
これも、非常に大きな要因のひとつです。
施設側としては、一度転倒・骨折した人をリスクを負ってまで積極的に歩行させようとは考えません。
なので、せっかく急性期や回復期で杖歩行までできるようになっていても、歩行器歩行に落としてしまうということは、しょっちゅう見かけます。
杖歩行は十分な見守りがある中で行えていたとしても、施設では一人の人間に、たくさんのスタッフを割けないため、当然ではあります。また、転んで急激に状態が悪くなるよりも、すこしずつADLが落ちた方が「老化」という、誰もが避けては通れない道に、その理由を落ち着かせることができるため、家族にも説明がしやすいというのが現実かと考えます。
しかし、「転ぶのも老化のうち」と考える国では、歩きたい人には、積極的に歩かせることによって、むしろ移動性を維持できているというのも聞いたことがあります。
転倒は施設のせいではなく、防ぎきれないものであるという意識が、もっと広がればこのような、安易な思惑による人為的なADL低下を防ぐことができるのかもしれません。
そこには、医師の協力と、ガイドラインなどの策定、司法の判例が必要になってくる可能性はあります。
まとめ
久しぶりに、臨床の話題に触れました。
私も、急性期にのみいる間は、随分狭い世界から一方的に世界を見ていたものだと、外から見て感じています。
急性期の医師が、自分の目の前の患者の病気だけをみて自己満足に浸るような治療を続けていくことがないようにしていきたいものです。
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