骨折手術とBP製剤の早期使用・非定型骨折とBP製剤

骨粗鬆症診療をしていると、どうしてもぶつかる壁や疑問点があります。一昔前に信じられていたことがいまだに実施されているときに、「どっかで聞いたけど、本当にそれでよかったかな?」と疑心暗鬼になることもあります。

骨粗鬆症治療薬が生命予後にも関わることは、以前お伝えしました通りです。

【衝撃】hip fractureと生命予後
その上で、どのタイミングで治療を開始するべきか?また、最近話題(ちょっとまえ?)の非定型骨折(AFF)についても、まとめたいと思います。

骨折手術直後にBP製剤を使用することは推奨されるか?

BP製剤は、骨吸収を抑制するため、骨折直後に使用すると骨癒合を阻害するのではないか?という懸念があり、急性期病院では使用されてこなかったという経緯からの疑問です。

理論上は、骨代謝回転を遅延させる薬であるため、癒合を遅らせる可能性を考えてしまうのも、頷けます。

しかし、急性期で骨粗鬆症治療が開始されないと、その後開始される可能性はガクンと減ります。

回復期に行った後、整形受診がなくなったり、老人保健施設や特別養護老人ホームに入るなどした場合に、担当医が内科の先生で、骨粗鬆症に詳しくない先生の場合には、まずBP製剤などを考慮されません。

また、整形外来に来られたとしても、忙しい外来でマーカー計測、採血などを行い新規で骨粗鬆症治療薬を入れることは、困難になってきます。

さらに、BP製剤の場合には大腿骨近位部骨折の予防効果をだすのに、1から2年以上かかるのに、反対側の骨折が1、2年以内に多いというのも、臨床的に実感できるのではないでしょうか?

つまり、骨粗鬆症治療薬が骨癒合を遷延させるかどうかは大切な案件なのです。

結論としては、骨折手術後早期にBP製剤を使用することが、骨癒合を遷延させるというエビデンスはないということです。

もちろん、絶対にないと言う結論を出しているわけではありません。というか、有意差があるわけではないというのは比較的証明しやすいですが、有意差がないというのを証明することは困難を極めるため、このような結論になっていると考えられます。

すくなくとも、骨折術後早期のBP製剤の使用を否定するものはなく、安心して使用して良さそうです。

引用文献
Timing of the initiation of bisphosphonates after surgery for fracture healing: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials;Osteoporosis International February 2015, Volume 26, Issue 2, pp 431–441; Y.-T. Li et al.


一方で、抗RANKL抗体はFREEDOM試験から骨折治癒を遷延させないことが証明されています。

また、骨形成促進剤のテリパラチドは、もともと骨折治癒を遷延させるイメージはありませんが、椎体骨折では癒合促進効果が期待できそうとも言われています。

非定型骨折後とBP製剤

次に、非定型骨折(AFF)についてです。AFFは、以前BP製剤の長期服用との関連が重視されていましたが、骨粗鬆症ガイドラインでも、AFFでBP製剤の使用があったのは、30%のみで、さらに3年以上内服していたのは、このうちの45%のみとされています。

印象としては、

・BP製剤を内服していても、いなくても、AFFは起こる

・AFFで3年以上のBP製剤内服していた人は1万人に7人くらいと非常に少ない。

といったところです。

つまり、AFFがBP製剤関連かどうかを証明することは事実上困難。

さらに、BP製剤内服はBP製剤関連AFFのリスクと照らし合わせると、メリットの方が大

とも言えます。

しかし、AFFが生じる前に生じる大腿部痛や股関節痛は見逃せない症状です。

AFFの治療

AFFは大腿骨湾曲の強い人に生じます。不完全骨折の場合には、保存治療が選択されることもあるようですが、綿花などが難しい場合には完全骨折の前に予防的に髄内釘などを選択されることがあります。

しかし、注意点としては、不完全骨折では湾曲が強いために、髄内釘の挿入困難が生じ得ます。

完全骨折のほうが、整復されてしまえばネイル挿入には苦労しない印象もあります。(ただし、骨折部に若干の後ろ凸変形が残りますが、あまり問題になる印象は持っていません)

AFFが診断され、BP製剤の関連が疑われた場合には、中止されているのがほとんどだと思います。あとで、お示する論文でも全例中止されていたようです。

AFF治療とテリパラチドの使用

その上で、AFF治療にテリパラチドを使用した方が有利か?という論文があります。

検討項目は、

1. 手術したAFF(完全も不完全骨折も含めて)でのTPTDの使用と非使用

2. 完全骨折のAFFでのTPTDの使用と非使用

3. 非完全骨折で、手術をしていないTPTDの使用と非使用を検討


結論は、それぞれ

1. TPTD(テリパラチド)使ったほうが、偽関節や遷延癒合もすくなく、癒合もはやかった

2. TPTD使ったほうが、偽関節や遷延癒合もすくなく、癒合もはやかった

3. TPTDの使用の有無で偽関節や遷延癒合、癒合期間に差がなかった


つまり、完全骨折では使用がマスト、非完全骨折では、結局BP製剤止めないといけないし、積極的に検討してもいいんじゃないかな?と私はとらえました。

ですが、この論文の限界は、AFFがBP剤関連かどうかを証明できないところです。

論文中では骨折の前に12ヶ月以上BP製剤使用しているものと定義したようですが、先ほどお示ししたデータからもこれだけでBP製剤関連とは言い切れません。

引用文献
Healing of bisphosphonate-associated atypical femoral fractures in patients with osteoporosis: a comparison between treatment with and without teriparatide : J Bone Miner Metab (2015) 33:553–559 ; Naohisa Miyakoshi et.al

まとめ

少なくとも、骨折術後すぐから骨粗鬆症治療は初めても良さそう(しかし、BP製剤使用し、遷延癒合したときには再考が必要)。

BP製剤関連AFFが疑われた時にはTPTD使用がオススメ。

と言うのが結論です。


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