【勉強】大腿骨転子部骨折に最低限必要な術前計画はこちら!!

お仕事整形外科医です。


大腿骨転子部骨折はその頻度が非常に多いことから、術前計画をされない案件が散見されます


普段術前カンファレンスをがっつりやっている医局や病院も、大腿骨転子部骨折になるとほぼスルーみたいな状況もあります。


大腿骨転子部骨折は、高齢者増加の影響から骨折数が増加傾向にあるため、その経験頻度や注目度は高く、10年前と比較するとその臨床研究は非常に進んだように感じます。


以前、「大腿骨転子部骨折術前にはCTが必須」といった内容の記事を書きました。


【再確認】大腿骨転子部骨折の術前にCTを撮影すべきか 実は、これも10年前まではスタンダードとまでは言えない状況でした。


この10年で術前にCTを撮影することは分類の上でもマストのような取り扱いに変わっています。


しかし、大腿骨転子部骨折は、一般市中病院では若手の先生が担当し、お目付役として関節や脊椎の先生方が一緒に手術にはいるという形が多く見られることから、10年前の知識のままカンファレンスが進行しているように見受けられることがあります。





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『こなすだけ』の手術は成長しないよね


この記事のまとめ
  • 単純レントゲン撮影のみではわからない骨折型がある
  • 指導医を必要とする若手はとくに術前計画が必須な訳
  • 術中に泣きをみないための術前計画




術前のCT分類は必須

大腿骨転子部骨折では、術前単純レントゲンの2方向のみだと、見落とされる骨折型があることが知られています。


その一つが、ぞくにいう「バナナ骨片」を含む、骨折です。


単純X線撮影のみでは、一見大転子と小転子が骨折していない、いわゆる「安定型」にみえるのですが、CTを撮影すると後方で 大転子と小転子が一塊となって離開している例があります。


このような症例を術前安定型と捉えてしまうと大きな落とし穴に落ちることになります。


そもそも、どうして術前に安定型と不安定型を見分けるのが重要かと言うと、若手にとって事前に自分で対応ができそうかどうかをしっかり見分けることで、どのようなアプローチや機械が必要となるか?上司の手をどの程度煩わせる必要があるか?を事前に知ることができるためです。


若手のうちは、経験が少ないため想定外のことが起きたときの対応能力は低く、事前に準備がないと途端に対応不能に陥ることがあります。


そのため、事前に準備ができる機械や、アプローチの勉強などは確実に事前に行っておく必要があります。


もう一点、上司の手をどの程度煩わせるか?ですが、この見込みが甘いと、上司の1日の業務予定そのものを変更させてしまう可能性が生じます。


例えば、安定型のインプラントを設置するだけのような症例であれば、上司は院内のどこかにいて、何かあった時に電話をしてもらうだけの、他の業務を行っていただきながらの対応で済むかもしれません。


しかし、不安定型である場合には、一緒に手術に入ってもらうなど時間を取ることになります。


事前に分かっていれば、上司としても動きやすいのですが、これが、当日突然生じると上司の業務計画が一気に崩れてしまいます。


なので、事前に把握し、上司にどの程度の協力を仰ぐ必要があるかを見込んでおくことは非常に重要と言えます。

他にも術前のCTで確認する

少し話がそれましたが、術前のCTでは他にも確認することがあります。


一つは、使用するインプラントが髄内釘の場合、髄腔径の計測です。


特に、不安定型骨折で、semi-longやlongのネイルを使用する場合には、最狭部の髄腔径計測はマストになります。


さらに、最近の報告の中には、後方成分の評価(バナナなど)以外にも前方成分の評価のためにCTは有用というものもあります。

引用
3DCT で評価した大腿骨転子部骨折の前方骨折線と腸骨大腿靱帯の位置関係と治療成績の関連性 山口労災病院整形外科 金岡 丈裕ら 骨折 42(1)197‒199,2020

腸骨大腿靭帯は、大腿骨転子部骨折の整復阻害因子として有名な構造物。


引用させていただいた文献の中では、腸脛靭帯付着部よりも近位の骨折線であれば、観血的整復と靭帯剥離・跨ぐ骨折であれば術中牽引で骨折部が開かなければ、観血的整復や靭帯剥離をすべきという提言をされていました。


この前方成分の骨折線の位置がCTを撮影した方が検者間誤差が少ない可能性があり、有用だというお話しです。


若手の先生方は腸脛靭帯剥離を伴うような症例の場合には、事前に勉強し、上司の協力を仰ぐ方が無難です。


ついでにお話ししますと、semi-longやlongのネイルを使用する場合には、健側の大腿骨全長がマストです。


理由は、大腿骨のbow(弯曲)がネイルのRと合うかどうかの確認です。

短縮が強い症例には術前牽引下レントゲンがオススメ

大腿骨転子部骨折の症例の中には、術前に骨折部の短縮が高度なものが存在します。


その場合に、術中と同様に下肢牽引するとどのような形状に戻るのかを確認することは非常に有用です。


具体的には、下肢を徒手的に牽引してレントゲンを撮影するのすが、私は正面像のみですが、昔で言う「電気アンマ」のような形で行っていました。(わからない人は、親に聞いてみてください)


このレントゲン撮影は、技師さんにお任せするべきではありません。


疼痛を伴うため、ある程度のリスクもあるためです。


私はこれまで撮影中にトラブルになったことはありませんが、痛みにやさしい技師さんにはできませんし、高血圧患者さんなどの血圧を上げるリスクもあるので医師がやるべきだと思います。


これにより、牽引のみである程度整復が可能かどうか?を判断し、事前に準備が必要な機械・アプローチや整復の勉強・上司の手の必要度の把握もわかります。


もう一点、頚体角を知ることで、使用するインプラントの選択にも関わります。

まとめ

個人的には、簡単といわれる症例にほど、リスクは潜むとも考えています。


とくに、最近は転子部骨折は緊急に近い扱いで迅速に手術に運んでいく流れがつよいので、インプラントの用意などには厳格な注意が必要です

若手の先生方は特に1症例1症例を大切にこなすことが、成長を爆発させるために有用な方法であると思います。

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