大腿骨転子部骨折の知識アップデート

骨折治療は日々進歩しています。

その一方で、日本の骨折治療学会の学会誌では、そのほとんどが手術加療についての論文です。

なかでも、インプラントを使用してみたという論文にはあまり興味を感じません。その理由は、

  • インプラント間で比較する時に治療対象を合わた論文がすくない(骨折型・患者背景など)
  • 他のインプラントと比較していない論文も多数
  • やや、オーバーインディケーションになりやすい傾向がある
もちろん、論文自体に意味がないとは言いませんし、私も若手の頃は登竜門のようにインプラント比較論文を書きました。

なので、余計に上記の門外がきになるのです。

そのうえで、好きな論文の特徴としては、

  • 症例数がすくなくても、手術手技のtipsが記載されている(インプラント使用ではない)
  • 保存治療した場合の、成績など
  • 治療方針を修正させてくれるような論文
です。

論文を読むと、最近のその分野の「流れ・空気感」が伝わってきます。

そこを修正していくだけでも、有益であると考えています。

不安定型転子部骨折はshort nailか?long nailか?

引用
不安定型大腿骨転子部骨折におけるnail 長の違いによる 術後成績の比較 藤沢湘南台病院整形外科 上野 圭信ら 骨折 第41 巻 No. 4 2019 1351-
以前から、カンファレンスでよく議題に上がる、「不安定型にたいして、middle nailを使うか問題」

個人的には、
  • 手術の手間も時間もそれほど変わらないので、まようならmiddle
  • ただし、インプラントに頼って、整復不良はNG
  • neil先端での2次性骨折は懸念されるので骨粗鬆症対策はマスト
と考えていました。

しかし、3つ目の懸念もあること、さらに、骨粗鬆症対策をしても効き始めるまでに続発する骨折を防げないこと(続発骨折の頻度としては1、2年以内に多い印象があるため、術後から対策を行っても無意味?)から、本当にそれでいいのか?悩むときもあります。

やっぱり整復位だ

結論としては、私の好きな感じの結論でした。

インプラントによる差よりも、整復位の良否のほうが、結果に影響を及ぼしているというものでした。

やっぱり、subtypeAへのこだわりが必要なようです。

考察から知ったこと

以前から、「過度のスライディングは、10mm以上のスライディングを指す」というのは知っていましたが、早期に判断するための指標は、恥ずかしながら知りませんでした。

術後1 か月でのsliding 量のカットオフ値は6.2mm であり,その感度は100%,特異度は92%というのは、初めて知ったことでしたのでメモがわりに置いておこうと思います。

引用
福田文雄,元嶋尉士,田島貴文ほか.大腿骨転子部骨折における過度のsliding に関与する因子.骨折2012;34(1):81-

まとめ

いくら道具が発達しても、それを使いこなす側が、使いこなせなければ意味がありません。

また、基本となる、整復操作をないがしろにすると、インプラントに救われることもあるかもしれまえんが、それが永続的に続くとも考えられません。

インプラントがよくなると、ストライクゾーンは広がりますが、それに甘えるとボールを投げてしまうのが人間です。

「整復ありきの内固定」、「インプラント挿入術」ではなく、「骨折観血的整復術」であるということをあらためて、胸に句刻みたいと思います。


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