お仕事整形外科医です。
高齢者の骨盤骨折は、私が医師になりたての頃は保存治療がすべてで、入院してもすぐ回復期に転院というのが通例でした。
高齢者が増加するなか、大腿骨近位部骨折同様に高齢者脆弱性骨盤骨折も増加しています。
近年は手術によって早期に離床を目指す流れもみられ、割とホットな分野です。
- 高齢者脆弱性骨盤骨折を、疼痛が強い間に回復期に転院するのは、もはや情弱?
- 転子部骨折などと同様に厳しいムンテラが必要
- 手術適応は?
高齢者骨盤骨折の特徴
高齢者の脆弱性骨盤骨折は、その名前のとおり、低エネルギーでの受傷です。
若年と異なり、血行動態に影響を及ぼすものは少ないものの、まれに出血が持続し命の危険を伴う骨折です。若年者と異なり、数日間という長いスパンで血行動態を確認する必要があり、すくなくとも受傷後3日とかで急性期から退院もしくは転院は避けた方がいいように感じます。
次に、死亡率についてです。
大腿骨近位部骨折でも1年後死亡率の話がよく出てきますが、脆弱性骨盤骨折でも同様に1年後の死亡率は10%を超えると言われています。
つまり、受傷搬送されてきた時点で家族には、それなりに厳しいムンテラが必要ということになります。
高齢者骨盤骨折の診断
診断にはレントゲンのみでは限界があることが知られています。
特に後方成分(仙骨部分など)の診断は単純レントゲンのみでは、骨折線がもともとわかりにくいことに、腸管ガスの影響などがかさなり、診断は困難で、報告によっては20〜30%でしかできないとも言われています。
後方成分の骨折の有無は、その後の治療に影響を及ぼす因子であるため、骨盤骨折にレントゲンしか撮影していない場合、やや不安が残ると言わざるを得ません。
高齢者骨盤骨折は後から骨折が見えてくる!?
また、脆弱性骨盤骨折は後から骨折線が出現してきて、その重症度が変化することも特徴です。
実際に、国内でも調べられている論文があり、177例の高齢者脆弱性骨盤骨折(以下、FFPs)のうち、初回に保存治療を選択してから疼痛が遷延し複数回CTを撮影した症例124例について検討されています。
この論文では骨折の進展が27例に認められています。
つまり、この結果からは、少なくとも疼痛が残存しているうちに回復期転院や自宅への退院は視野に入れない方が良さそうであることがわかります。
論文ベースではありませんが、JOA2020の脆弱性骨盤輪骨折updateの講演のQA欄には、次のように記載がありました。(一部改変)
すくなくとも、FFPⅡ以上の後方成分骨折が片側でもあり、疼痛が残存している間に早期転院・退院は推奨できないと思われます。
また、治療についても、可能ならPTH製剤を推奨する発表も散見されますが、現在の急性期のDPC診療では難しい部分があるようにも感じます。
さらに、回復期にうつっても、それを継続させられる施設はほぼないと思います。
まとめ
FFPsは、今後もアップデートが頻回に行われる可能性があります。
正直最近は、手術適応についても「ややオーバーインディケーションでは?」と感じる発表もあります。
頻度の高い骨折であるが故に、動向を注視する必要があると思っています。
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