【私見】BCR-TKAの適応の狭さ

前十字靭帯と後十字靭帯の両方を温存する人工膝関節置換術である、BCR-TKAは、2015年ごろより日本でもちらほら見られたり、発表されるようになりました。

お仕事整形外科医の職場の上司が、何度かこのシステムを利用しているのを見ていました。

発売当初より、その適応がどこにあるのか?が手探りだったのですが、結論から言うといまだに私は懐疑的な見方をしています。

日本人の変形性膝関節症における、膝損傷形態

日本人の多くは、内反膝をともなう変形性膝関節症(膝OA)です。

欧米諸国では、体重過多による内顆と外顆が均等に軟骨がすり減るタイプの変形性膝関節症が一定数存在しているようですが、日本の実臨床でそのような症例と出くわすことはほとんどありません。

ほとんどが下肢のアライメント不良、それも内反変形を伴っています。

私は膝の人工関節置換術で、大きくアライメントを変化させて長期的に成績が良いとされているのは、conventionalなTKAのみと理解しています。

UKAでも、アライメントを大きく変えると中長期成績を悪くすることがわかっています。

BCR-TKAは、今後の報告が待たれる部分もありますが、私見としてはあまり大きくアライメントを変えるような重症内反膝をともなう膝OAの方には適応がないと思っています。

そもそも、重症内反膝を伴う膝OAの方は、ACL、PCLともに正常な状態で残っているとは思えません。

BCR-TKAはACLもPCLも正常であることが前提ですので、適応はないと思っています。

このように考えると、
”アライメント異常を伴わない、内側外側コンパートメントともに傷んだ膝”

が適応となります。

ほとんど見たことがありません。

膝の疼痛出現要因

実臨床をしていると感じますが、レントゲンの所見と疼痛の程度は必ずしも一致しません。

進行した膝OAでも疼痛がほとんどない方もおられます。

そのなかで、膝の不安定性が出現する人(lateral shift)が出る人は、疼痛が出やすいと言われています。

このような不安定性のある方の場合、ACLやPCL含めて、果たして本当に正常と言えるものが残っているのか??疑問に感じる時があります。

たしかに、ACL,PCLは前後安定性の因子ではありますが、回旋安定性にも寄与しているはずです。

その点で3次元的に考えた時に、歩行時に不安定性がある人がACL,PCLともに正常というのは、考えにくいのではないかと考えています。

一方、靭帯の正常か?そうでないか?は、はっきりした定義がなく、評価者・術者に一任されているのが現状かと思います。

その点で、バイアスが入っているのでは?と疑わざるを得ません。(もちろん、この記事も個人的なバイアスはあると思います)

この点を踏まえると、”不安定性のない膝だが、両コンパートメントとも傷んだ膝”が適応となります。

人工関節を入れるスペース(ギャップ)を作るために骨を切る

UKAでもそうですが、ACL,PCLともに温存するため関節のギャップを確保しにくく、そのために骨きり量がTKAより多くなる傾向があります。

内側の骨きり量が7mmや8mmになることもあり、TKAでは考えられないような骨きりになります。

vangurd XPの商品説明には、”Why remove healthy ligament?”と記載があります。


私は、”靭帯を温存するそのために、なぜ正常な骨をロスする必要があるのですか?”と疑問に思います。

将来的にrevisionのリスクも考えますと、内側を7,8mmも切ったことによるbone lossはかなりデメリットになります。

また、関節ギャップが取りにくいので、関節拘縮が強い膝に適応となることはあまりなさそうです。

さらに、いくつかの使用経験の報告を見ますと、関節可動域がいい人を対象として手術をしたにも関わらず、関節可動域低下が生じている例も存在しています。

つまり、”関節可動域がいい、将来revisionの懸念が少ない(ご高齢者?)で、ちょっと関節可動域下がるかもね?と伝えてもいい人”が適応となります。

固有感覚が残存できる

ACL,PCLを温存することのメリットは固有知覚の温存にあると思います。

固有知覚とは、自分の違和感のない膝のために必要な感覚であり、膝がどこにあるか?今どのくらい曲がっているか?などを目をつぶっていてもわかるようにしている感覚です。

たしかに、この点においては温存のメリットはあります。

まとめ

全体的な適応を考えると、
  • アライメント良好な両コンパートメント障害かつ、ACL,PCLは正常(非常にまれ)
  • 将来revisionは考えなくていい(ご高齢者?)
  • 可動域がいい。でも、術後すこし可動域が下がっても許容できる

つまり、
”ご高齢者のOAで両コンパートメント障害・アライメントは良好で活動性の低い人”
となります。

このような方で手術を希望される方はおられますかね。。。

ほとんど、適応がないように感じるのは私だけでしょうか?

個人的には、骨きりの適応が拡大していることを踏まえると、両コンパートメント障害でなければ骨きり。

骨きりが高齢者に不利というなら、内反OAで内側コンパートメント障害のみならUKA

UKAの適応にならないような両コンパートメント障害なら、conventional TKAで対応(両コンパートメント障害かつACL,PCL正常な膝で、ご高齢者が体力や基礎疾患手術を考えても手術しないといけない状態って、あんまりないと思うので)

かと考えます。

もちろん、私見ですので、これが全てではないと思います。

また、私が骨切りには自信がありますが、BCR-TKAに自信がないというのもあります。


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