お仕事整形外科医です。
私の著書「骨折手術の術前計画だけの本」についてです。
この本は、2018年に出版。その後10回以上改定を繰り返している書籍です。
今回は、なぜ、私が「骨折術前計画だけの本を書こうと思ったのか?」「この本の目指すところ」をお伝えします。
時間がない方は、下記の「まとめ」のみ読んでください。
- これまで、「術前計画の立て方・準備」だけを書いた本がなかった
- 「術前計画の立て方・準備」は基礎でありながら、非常に重要なこと
- 若手の整形外科医にとってわかりやすい表現を使用し、実践を意識して書いた本
「骨折術前計画だけの本」を書いた理由
2つのきっかけ
1つは、本書のなかにも、書いていますが、私は、外傷の手術に関わることが多く、その教育にも関わることがありました。
あるとき、若手の先生から、「先生は、なんの本を読んで術前計画を勉強したのですか?」と聞かれたのです。
確かに、骨折に応じたプレートの長さやスクリューの本数の推奨など、いくつかその手のものは読みましたが、計画の立て方について詳細に書かれている本がなく、なんとなく先輩から盗んだり、自分で勉強・試行錯誤した部分が多いように感じたのです。
2つ目は、第41回の奈良で行われた骨折治療学会の特別講演、「骨折内固定の合併症 −予防と対策−」を聞いたときのエピソードがあります。
この講演は、私が勝手に尊敬している、骨折治療学会元理事長である澤口毅先生のご講演でありました。
少々乱暴ではありますが、私的解釈で要約すると、
- 骨折の手術は術前計画が非常に重要である
- 術前計画の段階で、手術の成否はほぼ決まっている
- 「いまひとつの手術」のなかには、そもそも術者本人にその「技量」がなく、その先生が「やるべきではなかった症例」が含まれる
みなさん、どう感じられますか?
当然といえば、当然の内容なのです。
先輩からも言われたこともあると思いますし、学会や研究会・勉強会でもかならず口を酸っぱく言われます。
また、「残念な症例」を議論されるときにも必ず、そもそも「その先生がやるべき」もしくは、「やれる」手術だったのか?は問題になります。
しかし、骨折治療学会の特別講演で話さなければいけないほど、大きな問題なのです。
これには、少なくとも次の2つの理由があると思っています。
教育システムの問題点
外傷治療は、とりわけ市中病院でよくみられる現象ですが、他に専門を持っている先生が片手間に若手の教育をしながら治療をしている部分があります。
もともと骨折治療は、かなりtraditionalな部分が大きかったのですが、AOのおかげで系統的に教育される環境にはなりました。(traditionalを否定するわけではありまん。むしろ必要だと思っています。)
しかし、それでもいまだに現行の教育システムは、医局や上司など環境に依存する部分が多くあることは否めません。
もちろん、しっかりとした教育プログラムの中で症例を重ねられる先生もおられれば、なかには、環境に恵まれずにきちんと教育を受けれていない先生もおられます。
全てを「周囲の環境」のせいにするのは良くないと思いますが、1つの要因であることは「真」だと思います。
しかし、学会や研究会・勉強会で世話人や講師になられている先生や、名著を出されている先生の中には、ご自身の周囲の恵まれた環境が「あたりまえ」と思い、「基礎中の基礎はどこでも先輩から教えてもらえるもの」と考えている先生もおられます。
では、”当たり前”なのであれば、なぜ先ほど述べたようなことが起こるのでしょうか?
なぜ、自分の技量が達していないにもかかわらず手術をしてしまって、残念な結果になる症例があるのでしょうか?
なぜ、澤口先生ほどの先生が、骨折治療学会の特別講演の場で、骨折術前計画の重要性を訴え、警笛をならさなくてはいけないのでしょうか?
それは、「あたりまえ」と思われてスルーされている重要な部分が若手のうちの教育から抜けているからではないでしょうか?
名著とわかりやすい本は別物
名著とされる本はいくつもありますし、私もいくつも出会いました。
しかし、なかには、内容が理解出来ない、イメージがわかないと感じる本もありました。
とくに学会誌や教科書的な本は、
- 読者として想定される対象が幅広くなりすぎる
- 表現が学会などで頻用されるものが好まれる
などから、わかっている人には、わかりやすいのですが、レベルがそこまで達していない「若手の先生方」にはわかりにくい部分があります。
また、世の中を見渡すと、「名著をわかりやすくしただけでバカ売れしている本」もたくさんあります。
つまり、「名著」と「わかりやすい本」は、必ずしも一致しない場合もあるということです。
みなさんも経験があるかもしれませんが、賢い先生が必ずしも講師・著者となった場合に、人に上手く伝わるとも限りません。
そうでなければ、私がもう一人、勝手に尊敬している骨折治療学会理事長(2020現在)の渡部欣忍先生が、「あなたのプレゼン 誰も聞いてませんよ!」という本を医師向けに販売されるわけがありません!!(しかも続編まで笑)
続・あなたのプレゼン 誰も聞いてませんよ!: とことんシンプルに作り込むスライドテクニック
読者に合わせて、内容・表現はかえるべき
私は、本を読んだり、内容を理解したり記憶するのに、一般的な先生方と比べて時間がかかる方だと自負しています。
なので、人の倍努力するつもりで時間を割いて勉強しました。
人目も気にせず、オペ中でも隙をみつけてメモをしまくってました。
私の書いた「骨折術前計画だけの本」は、そんな私が書くレベルですので、若手の先生には刺さるかもしれませんが、学会や研修会などで世話人・講師になられるような賢い先生方には物足りないに決まっています。
そもそも、学会や研修会などで世話人・講師になられるような賢い先生方と同じ表現で、私のような「バカ」が満足できる理解ができないように、私のような「バカ」が書く本を、賢い先生方が満足するわけがありません。
この本の、読者は「若手整形外科医」です
若手の頃は、「当然」もわかりません。
全ての土地で、同様の教育を受けられるようにはなってきましたが、それでも格差は確実に存在します。
いろいろな若手の先生方にすこしでも、この本の内容が刺さることを願っています。
最後になりましたが、もう一回言います。
この本は、「若手整形外科医向け」の本です。
猛者の先生方には、内容が薄く感じられご満足いただけないことは承知です。
わかりやすさとは、想定される読者に合わせて表現・内容を変える思いやりだと思います。
レビューへの雑感
実際のレビューとは多少違った印象を受けられるかもしれませんがご了承ください。
お褒めのお言葉をいただき、非常に励みになります!!
また、全体として私がメインターゲットとしている先生方が「若手の整形外科医」であることも、伝えられているようで、大変嬉しく思います!
一方で、本書の内容が希薄・整形外科医としては当然の内容であるといった趣旨のレビューもいただきました。
確かにそのとおりで、本書の内容は「整形外科医なら誰もが知っているべき内容」で、「本来は教えてもらっているのが当然の内容」なのです。
しかし、先ほども述べましたように、私がこの本でお話ししている基本的内容は、骨折治療学会元理事長、AOTraumaにおいてAO Trauma Asia Pacific Board Chairpersonも務められているトップランカーの澤口毅先生が各所でご講演されている内容に感銘をうけ、さらに深堀したものです。
つまり、基本的内容にもかかわらず、周知徹底されていないために問題視されているということです。
たしかに、これらの基本的な部分が抜けていたのでは?と実臨床で感じる時もありますし、学会や研究会で取り上げられる症例の中から感じることもあります。
ですので、私たちが当然と思っている内容も、若手の先生方にしっかり伝え、再確認していただくことは重要なのではないかと感じています。 だからこそ、澤口先生ほどの先生が、骨折治療学会の特別講演などの場で、骨折術前計画の重要性を訴え、警笛をならされているのではないでしょうか?
当然のことを、当然と決めつけてしまうことは、注意が必要です。
賢明な先生の「当然」が、かならずしも世の中の「当然」ではないと思います。
当然のことだから、改めて伝えない・価値がないというスタンスは医療事故にもつながりかねません。
[/box]
新着記事
【ポータブル電源】家族持ちなら即購入?ただし購入体験は最悪。 【買い!】echo show15の半年使用後レビュー 【保存版】顎骨壊死を懸念してビスホスホネート製剤の予防的休薬は不要!?コメントをどうぞ