お仕事整形外科医です。
医者が介護保険の記事書くことを疑問に感じられる方は、必読です。
「患者さんが診察室だけではなく、生活期においてどのように過ごされているか?に興味を持つべき」と言うのがこの回の結論です。
- 診察室・病院で見える患者さんは一つの側面
- 介護保険制度を少しは知っておかないと、生活期のことを想定できない
- 疾患が同じでも、患者さん・環境によって治療方針は異なるというスタンスをもつべき
知っておきたい介護保険制度
介護保険制度の中には、急性期の医師でも最低限知っておきたい内容があります。
高齢者の住まいについて
高齢者の住まいにはいくつかの種類があります。
よく、一括りに、「老人施設」と言われる方がおられますが、それでは生活期において本当に患者さんにとって最良の医療を提供されているかはわかっていないということを、自分で発信しているようなものです。
例えば、グループホーム(認知症共同生活介護)とサービス付き高齢者向け住宅は、生活の場としては異なる特徴があります。
グループホームは介護保険を「丸め」として利用するため、その他の介護保険サービスはすべて自費になります。
つまり、介護保険を利用して、訪問リハビリを入れるのは、基本困難です。
そもそも、「医療保険でリハビリをいれたらいいのでは?」と思われるかもしれませんが、医療と介護の両方の保険を利用可能な人にとっては、介護保険サービスを優先的に利用するのが基本です。
グループホームに入られる人は認知症がある要介護を持っている人が基本ですから、介護保険を持っているのが普通です。
なので、医療でリハビリを入れることは難しいと言えます。
一つ方法として特別訪問看護指示書を記載して医療保険でリハビリを入れるやり方はありますが、これも、「1ヶ月に連続した14日までの日数制限があること」、そもそも「特別訪問看護指示書を記載すること自体に制限が多い」など、基本的に医療保険をもちいての「継続的な」リハビリは難しいと思った方がいいと思います。
もちろん、退院後生活に慣れるまでの間、特別訪問看護師指示書を書くのはありだと思います。
介護サービスも自費であればどれだけでも入れれますが、なかなかそれが許容できる家庭は多くありません。
一方、サービス付き高齢者向け住宅は基本が家であり、介護保険はそれに付随するものといイメージなので、介護保険を利用して訪問リハビリを入れることは、グループホームに比べると容易です。
しかし、例えば認知症が悪化し、自分でできることがかなり制限のある人はサービス付き高齢者向け住宅に入居できない場合もあります。
*サービス付き高齢者向け住宅は、それぞれの施設によって、かなり特性が異なるため、もし患者さんが退院後入られることになったら、状況などを含めて事前に確認しておいた方がいいです。
こうやって書くと、「認知症の人はリハビリ受けられないんかい!」って思われると思いますが、実際そんな感じです。
これは、もともとグループホームの精度ができたときに、ここまで折り込んでいなかったのが原因と言われています。
介護保険そのものについて
実は、これもわからない先生も多数いらっしゃいます。
介護保険は、医療保険と違い、介護度によって利用限度額が設定されており、それを超える部分はすべて自費となります。
そして、意外と患者さんにとって重要な、リハビリなどの部分についても介護保険で賄われるため、言い方は悪いかもしれませんが、金のあるなしがその後のADLに響いているように感じる時もあります。
医療保険であれば、月の上限額があり、それ以上は支払わなくても済みますが、介護保険の上限額は介護保険で減額される部分の上限、つまり、保険が利用できる(負担割合が減額になる)金額に上限があるというイメージです。
整形外科医と介護保険の関係
このように、リハビリを重要とおもっている整形外科医なら、ある程度の介護保険への理解は必要と言えます。
現に、整形外科の論文でも、頸部骨折の術後1ヶ月と1年後では、1年後の方が歩容が悪いという結果も出ています。
一つ例を挙げます。
施設で転倒。大腿骨頸部骨折の高齢者を手術したとします。
最悪なのは、「施設で転ばせたんだから、すぐ施設に帰して、施設でリハしろ」という医師です。
ここには、いくつかの問題があります。
- 施設は病院ではなく、家。
- 家なので、転ぶ時は転ぶ
- 家なので、リハビリは病院のようには基本できない
- 家なので、病院と同じような手厚い看護もできない
しかし、この発言は介護施設をしらない医師にとっては、「理にかなってしまう」発言なのです。
一方、先ほど述べたような、介護保険への理解があると、まずご高齢者の施設がどのような種類のものなのかを知り、リハビリが継続的に入れるか?を考えます。
施設でリハビリが無理なら、回復期も検討すべきです。(しかし、回復期にいくと施設の帰宅までの時間が長くなりすぎて、一時退去扱いとなり、同じ施設に戻れない可能性がでてくるなどの弊害から、回復期を希望されれないご家族もおられます)
もちろん、本人のもともとのADLにもよると思いますが、もし回復の見込みがあるならリハビリを可能なら入れて、ADL改善を図るのが整形外科医のスタンスではないでしょうか?
このように、最終的なゴールを描くときには、ある程度の介護保険への理解も必要なのです。
診察室の患者さんが「全て」ではないという意識
患者さんを医者が診ることができるのは、診察室と病室がメインです。(手術室も?)
生活期の患者さんの状況を把握する際には、家族を含めた普段介護している人の話を積極的に聞く姿勢が重要です。
数年前から患者立脚型評価が注目されていますが、家族を含めた普段介護している人の話は、生活期における患者さんの患者立脚型に近い側面があります。
自分が目の前で見ている患者さんが、全てではないといういい意味での「疑心」が必要です。
一方で、患者立脚型評価には、医療的な評価が信用できないというデメリットもあります。
医者は患者さんを診察室で見ながら、介護者の話も慎重に聞き、総合的に判断する必要があります。
まとめ
この記事を書こうと思ったのは、あるTwitterの記事を読んだためです。
病院と介護施設では患者さんの状況が違うという意見には部分的に同意できました。
一方で、剛に入れば剛に従うという言葉があるように、病院に入れば病院のルールもありますから、そのルールに従わない介護関係の方がおられるのは非常に残念です。
治療によって改善が見込めず、命を削るかもしれないことを覚悟で在宅で好きなことをしてもらうことと、からだの回復を期待して病院に入院している人を同じにするのは間違いかと思います。
どうしても、意見があるなら話し合うべきですし、話し合っても取り合ってくれないと言って、諦めるならそれまでの想いということです。
ルールを破って行う行為は、単なるルール違反であり、短期的に何か満足感がえられても、それが長期的にどのような影響を及ぼすかまでを評価・責任を取る必要がありますし、それが単一の視点でしか評価できないならするべきではありません。
命に関わると言うのは覚悟がいります。
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