【骨折】高齢者の大腿骨近位部骨折管理の理想と問題点

お仕事整形外科医です。


高齢者の大腿骨近位部骨折(頚部骨折と転子部骨折を合わせた名称)は、増加の一途を辿っています。


医療経済的にも健康寿命・生命寿命の観点からもこれらの骨折の増加は、何もいいことはなく高齢化に歯止めがかからない日本の現場では大問題です。


大腿骨近位部骨折の問題点は、

  • 内科的基礎疾患を抱えていることが多い
  • 入院後のせん妄・認知機能低下が生じうる
  • 手術待機の間に廃用・内科疾患の増悪が生じる
など、上げだすとキリがありません。






大腿骨近位部骨折一般的な現状

日本における高齢者の大腿骨近位部骨折の現状としては、

  1. 入院時に整形外科医がfirst contact
  2. 内科疾患を抱えている場合には(ほぼ、抱えているのですが、、)、他科への相談
  3. 麻酔科の介入が必要であれば、他科への相談結果を含めて手術の可否を判断
それから手術が可能という流れです。


2,3は同時に行われることもありますが、受診時に整形外科医が診察してから内科への相談・検査・結果の返事は長いと数日かかることもあります。


ご存知の皆様も多いと思いますが、ご高齢者の大腿骨近位部骨折は手術の待機時間が病院のontimeのなかで、48時間以内が理想とされており、早期手術は術後の成績にも影響を及ぼすことがわかっています。

引用文献
Zukerman」D, et al: J Bone Joint Surg 77-A: 1551-1556,1995


上記の流れを忠実に守るとなかなかその中で問題が解決しないことが多く発生します。


日本での手術前待機日数の平均は4.6日とも言われており、理想とのギャップは明白です。

引用文献
大腿骨転子部骨折の治療:適切な手術時期 日本整形外科学会/日本骨折治療学会監修:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版) 2011,p125-127

以前の調査では、大腿骨近位部骨折を受傷された患者さんの、術前の内科への相談が、全体の85%に及んでいることが言われています。

参考文献
CLINICAL CALCIUM, Vol25,No4 41- 澤口ら
この点を含めると、ほとんど全患者さんが内科への相談が必要となるため、大腿骨近位部骨折の術前評価は多職種で行うべきではないか?という考えが生まれます。

まず、ご高齢者の骨折の場合死亡するリスクがあるという説明が必須です。


そうしないと、家族は”骨折で入院なら死ぬことはないだろう”とタカをくくっている方もおられます。


大腿骨近位部骨折の1年後死亡率は10〜20%前後あり、一般的の方が想像するよりも高いと思われます。


もちろん、もともと予備能力が低いご高齢者の方が多いという問題もありますが、内科的な疾患もふくめて、運動器が寄与する部分は大きいためと考えられます。

参考文献
Sakamoto K, et al JOS 11(2); 2006
Cooper C, et al. Am J Med 1997 ; 103(2A): 12S-19S



他職種連携による医療経済への効果

もう一つの解決すべき側面として、医療経済への問題もあります。


手術待機時間が長いと術前の廃用進行や、術前後の合併症の増加から、入院期間が延長することが指摘されています。


内科・老年科や、精神科が積極的に介入と管理をすることで、これらを防ぎ入院期間の短縮・医療経済への負担軽減も言われています。

引用文献
Strain」J, Lyons JS, Hammer JS, et al ;Am J Phsychiatry 148 : 1041-1049, 1991.
また、介入する職種を栄養科や薬剤部など、多方面から再骨折予防の観点からも増やすことで、さらなるメリットが期待されています。

現状と問題点

他職種連携は重要かつ効果的であることが分かりますが、全ての病院ですぐに実現することは難しそうです。


一つは、内科・老年科・精神科などの医療スタッフ不足と多忙さです。


背景には、科目別の専門性の向上が、それぞれの科同士の風通しの悪さというデメリットを含んでしまっている部分にあると思います。


これは、うちの疾患、それ以外はしらないというスタンスが蔓延っている病院は多く見られます。


もちろん、整形外科の中にもある風潮です。


さらに、同じ内科の中でも、「うちの疾患じゃない」診療を頑なに行い、患者のメリットが度外視されている場面も見られます。


多忙な中に、さらに他科の負担をお願いするかもしれない事案については、かなり慎重に議論すべきであり、先ほど引用した富山市民病院の論文でも、

基本方針として,併存疾患を有する高齢者の大腿骨近位部骨折患者を単なる整形外科だけの疾患としてではなく,“様々な疾病を持つ高齢者がたまたま骨折した”として病院全体で“みんなで治療する”ことにした

という、一文の中に、配慮が見え隠れしています。


二つ目は、保険的な問題ですが、患者さんが回復期・生活期に移行した後のフォローの難しさです。


回復期も急性期同様包括医療であり(下手するとさらに厳しいくらい)、使用薬剤に限りがあります。


せっかく急性期で導入した骨粗鬆症治療薬が継続不可能という自体も散見されます。


地域をひっくるめた骨粗鬆症治療連関を構築しても実施できないのが、「理想と現実」といったところです。


以下は、以前まとめた記事です。

包括医療による、過少診療?

まとめ

患者さんにとって理想と考えられていても、それを実行に移す際には様々な障壁があります。


そこには、医師同士のせめぎ合いや、ポジション取りなど、患者さんからすれば全く関係のない負の部分も見え隠れします。


その点をいかに、うまくクリアしていけるのか?が手腕が問われる部分だと思います。


全員が納得できる仕組みを形成し、いつか患者さん、スタッフ、病院、お国全体のメリットにつながると信じています。








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